
トランプ大統領のTwitter アカウントが復活した。さて、何が起こる?
Twitterでの「投票」という非常にシンプルな手法で、多数を取ったことを理由に、Twitter の新しいCEOはトランプ大統領の「復活」を決定した。
しかし、多くの人は投票の結果に関わらず、彼はこうしていたと考えている。なにせ6兆円も出したのだ。好きなようにやれないなんて馬鹿げている。


51歳のビリオネアが、自分の金で買った会社をどうしようと勝手かもしれないが、これは、Twitterのビジネス継続という意味では、極めて危機的な意思決定であると言わざるを得ない。
Twitterが直面するリスク
Twitter エンジニアリングリスクについては前回の記事で書いた。
ただ、正直に言えば、Twitter のアーキテクチャがどうなるかは、誰にもわからない。多くの元社員が警告しているのは事実だが、Twitter のCPOが言うように、Twitterには豊富なソーシャルグラフがあり、多少の不具合があっても、人々は戻ってくるかもしれない。
しかし、外的要因については別だ。これはかなり予測可能である。そして、既に見えているリスクだ。今この瞬間、Twitterが直面するリスクはいくつも存在する。
そして、それらは単独のリスクではなく、絡み合っている。大きく考えられるのは、下記の4つだろう。
広告主の離反
FTC(連邦取引委員会)からの圧力
GDPRを遵守しないことによる巨額の罰金
Google / Apple のアプリストアからの追放
まず、広告主の問題。これは、事業継続という意味では最も大きい。
Twitter の収益の90%は広告であり、仮にあのろくでもない Twitter Blue の認証マークを世界中の人間が欲しがったとしても、それを作るまでの赤字を減らすための重要な資金源となる。
10月には、イーロン・マスクは広告主向けに書面を送り、コンテンツモデレーションの安定性について語っていた。
にもかかわらず、GMやファイザー、ユナイテッド航空など、多くの大手クライアントが Twitter から離れた。
1週間前、広告部門のトップだった Robin Wheeler が、イーロン・マスクが実際に広告主に対して安全性を語るためのTwitter Spaceを開催した。
彼女はおそらく、現在のTwitterに対して、いかに多くの広告主が不安を抱いているかを理解していたのだろう。
そして……彼女もクビになった。理由はよくわからない。

イーロン・マスクは当初、彼女が残るように懇願していた。最終的には彼女は辞意を申し出て、その後クビになった。何を書いているかわからないと思うが、私もよくわからない。
トランプ大統領の復帰という意思決定に対して、彼女が賛同していなかったことは容易に推測される。
今Twitterにブランド広告を出稿することは、イーロン・マスクが今行っている、野放図な「言論の自由」への賛成とみなされる。もっと突っ込んで言えば、トランプ支持であったり、議事堂襲撃事件を容認するとみなされる。
更に、今のTwitterはコンテンツモデレーションが破壊されている。ブランドツイートの横にヘイト投稿が並ぶ可能性がある時、誰がお金を出すだろうか?
辞職した元社員の情報によれば、Twitterはアダルトコンテンツも重要な収入源として解禁していくようだ。


アダルトが悪いというわけではない。それは立派なビジネスだ。
ただ、アダルトコンテンツの横に広告を出したい広告主はそれほど多くない。それがハイブランドの商品であれば、特に。
ともかく、すべての広告主は、トランプ大統領の復帰という事実の後、広告を出稿し続けるか決めなくてはいけない。そして、少なくない数の「大手」クライアントは、Twitterへの出稿をやめるだろう。これはイーロン・マスクが不満を漏らす、Twitter の赤字をさらに拡大させる。
既にNAACP(全米黒人地位向上協会)など、Twitterへの広告出稿を取りやめるよう提言するアクティビストのグループがあり、広告業界の業界団体も危惧する声明を出している。


イーロン・マスクはもともと広告が嫌いだと言われている。赤字がいくら増えようが、広告のことなんて考えたくもないのかもしれない。
アプリストアからの追放についても考えてみよう。
同じ日に辞職したのはRobin Wheeler だけではない。社外にもよく知られた Trust & Safety のトップ Yoel Roth も辞任している。

Roth は辞職後、ニューヨーク・タイムズに寄稿し、下記のように述べている。
Apple と Google のガイドラインに従わなかった場合、Twitter がアプリ ストアから追放される危険があり、何十億もの潜在的なユーザーが Twitter のサービスを利用することがより困難になります。これにより、Apple と Google には、Twitter が下す決定を形作る大きな力が与えられます。
Failure to adhere to Apple’s and Google’s guidelines would be catastrophic, risking Twitter’s expulsion from their app stores and making it more difficult for billions of potential users to get Twitter’s services. This gives Apple and Google enormous power to shape the decisions Twitter makes.
Roth はアプリストアのレビューは「少数のテクノロジー企業のトップによって」決められているとし、不満を漏らしているが、Google や Apple の機嫌を損ねることは、彼らにとってとても大きな問題だ。
そして、アプリは広告収入においても重要な役割を果たす。イーロン・マスク肝いりの Twitter Blue も、ストア決済なら売りやすくなるだろう。
アプリから追放されれば、彼らは重要なトラフィックを失い、広告販売がさらに難しくなる可能性が高い。
そして、FTCと議会だ。いうまでもないが、トランプが Twitter を含めたあらゆるソーシャルメディアから追放されたのは、議事堂襲撃事件が理由である。
彼は議事堂襲撃を煽り、米国の歴史上最悪と言ってもいいクーデター未遂事件を引き起こした。

トランプの復帰のニュースを聞けば、民主党の議員は怒り狂うだろう。ただでさえ、イーロン・マスクはナンシー・ペロシ氏の自宅襲撃に関して、陰謀論をツイートして後に削除している。
議事堂襲撃は多くの議員にとって悪夢であり、それを扇動した人間に再びメガホンをもたせるとなれば、イーロン・マスクは責任を取らされる。ただでさえ、Twitter を含めたビッグテックに対する風当たりは強いのだ。
イーロン・マスクよりはるかに無害なマーク・ザッカーバーグですら、AOCにあれほど批判されたことを思い出してほしい。
そもそも、人権チームも、プライバシーの責任者も、Trust & Safetyの責任者もやめてしまった。一体誰が、今のTwitterにおいて公的な責任を追っているのか、誰もわかっていない。
そして、そう。GDPRも。TechCrunchの記事に詳しい。Twitterは他の多くのテック企業と同様にワンストップショップ(OSS)という制度を利用しており、このためにEUのヘッドクオーターであるダブリンにデータ保護の担当者(DPO)をおく必要があるが、今その担当者が存在しない、という話である。
実際にGDPR違反になるかというのは、ある程度ロングスパンで検証されるので、すぐにはわからないかもしれない。問題は、マスクがそれを軽視していることだ。
彼がもし、少しでもTwitterのブランドイメージや、GDPRのことや、公聴会に呼ばれるリスクを考えていれば、このような行動はとっていないだろう。
だから、「彼は天才だからなんとかするだろう」というような楽観論は、あまり意味をなさないように見える。
Literally, this is not a rocket science.
さて、結局、次に起こることは?
さて、これから「かなり起こりそうなこと」について話す。
まず、大規模な広告出稿停止は、ほぼ間違いなく起こるだろう。
セルフサーブの小口の広告、海外の出稿や、マンガ・ゲームなど影響を受けづらい分野もあるだろうが、グローバル企業や、米国企業のブランド広告の出稿は壊滅的なダメージを受けるはずだ。
これにより収益は減少する。それでも従業員をかなり削っているので、イーロン・マスクも広告の減収は織り込み、黒字を確保する可能性がないとは言えない(彼はデータセンターも一部削減するようだ)。
アプリストアから追放されるかは、まだ不明瞭だ。
Apple や Google のレビューに対応できる人的リソースがなければ、十分あり得る話かもしれない。android チームが丸ごとなくなったという話があるので、遅かれ早かれアプリからは徹底せざるを得ないのかもしれないが。
とはいえもともとTwitter の公式アプリはあまり成功しているとは言えない。仮にWeb Twitterだけになっても、何とかなるかもしれない。
FTCからの調査は避けられないだろう。既に何人かの上院議員がFTCに対して調査を要求している。


イーロン・マスクはこれに対してまともに対応するだろうか?誠実で、いい印象を与えられるだろうか?
答えがNOであるなら、Twitterはそれなりのペナルティを食らう可能性が高い。存続が難しくなるほどかはわからない。
GDPRも、FTCほど可能性は大きくないが、同様だ。
これらの外的な問題は、適切なチームがあり、適切な人材がいれば解決可能な問題である。そして、彼は世界一の金持ちであり、その気になれば必要な人材を揃えることは出来るだろう。
問題は、彼にその気があるように見えない、ということだ。
まともに社会と対話し、議事堂襲撃事件のような悲劇を起こさないための仕組みを作る気はなく、Twitterで「Woke」が慌てふためく様子を楽しんでいるように見える。
とはいえ、忘れないでほしい。トランプですら、未だに共和党の大統領候補に立候補しているのである。そして彼は大金持ちだ。Twitter の広告収益がなくなろうと、道は常に残っている。
たとえ、それが破滅に続く道だとしても。